
大胸筋トレーニングの誤解:「内側」「外側」は存在しない
筋トレ初心者が必ず一度は考えるのが、
「胸の内側を鍛えて谷間を作りたい」
「外側を効かせて横に広げたい」
といった願望です。
その気持ちはよくわかります。鏡を見て「ここをもう少し大きくしたい」と思うのは自然なことですし、SNSやYouTubeでも「内側狙い」「外側狙い」という言葉がよく出てきます。だからこそ、初心者ほどそのまま信じてしまうのです。
しかし、解剖学的に見るとこれは大きな誤解です。
大胸筋は「上部・中部・下部」という区分は存在しますが、「内側」「外側」という区分は存在しません。
イメージしてみてください。
大胸筋の筋繊維は胸の真ん中(胸骨)から腕の付け根(上腕骨)まで一本でつながっています。これはまるで 電気の配線 のようなものです。配線の途中だけに電気を流して「内側だけ光らせる」なんてできません。流れれば線全体に伝わり、最後まで届きます。
同じように、大胸筋も「内側だけ」「外側だけ」を鍛えることは構造的に不可能なのです。
大胸筋はどうなっているのか?
さて大胸筋は、解剖学的には「胸骨」から「上腕骨(腕の付け根)」まで大きく広がる一枚の筋肉です。扇を広げたような形をしていて、胸の中心から外に向かって繊維が放射状に走っています。
この筋繊維は途中で途切れることなく、胸の真ん中から腕の付け根までしっかりつながっています。
だから「ここから先は内側の筋肉」「ここからは外側の筋肉」といった区切りは存在しません。
イメージするなら、電気が通った一本の配線に近いです。電気は途中だけ止めて「内側だけ光らせる」なんてできません。必ず全体に流れます。大胸筋も同じで、内側を動かすと外側まで一緒に働きます。
つまり「内側だけ効かせたい」「外側だけ育てたい」というのは、解剖学的な仕組みから見ても現実には不可能なのです。

上部・下部は分けて鍛えられる
一大胸筋は解剖学的に「鎖骨部(上部)」「胸骨部(中部)」「腹部(下部)」の3つに分けられています。筋繊維の走行がそれぞれ違うため、トレーニングの角度を工夫すれば、狙った部位に相対的に刺激を寄せることが可能です。
例えば、上部(鎖骨部)の筋繊維は斜め上に向かって走っています。そのため、ベンチの角度を30度〜45度に起こしてバーベルやダンベルを押し上げる インクラインベンチプレス では、この上部がメインで働きます。胸の上側にボリュームを出したい人に適した種目です。
一方で下部(腹部)の筋繊維は斜め下に走っているため、体を少し下げた状態で押し出す デクラインベンチプレス や ディップス が有効です。ここを鍛えることで、胸の下にカットラインが入り、胸全体の形がくっきりして見えるようになります。
つまり、内側・外側のように「存在しない区分」を狙うことはできませんが、解剖学的に実際に分かれている上部・下部は、トレーニングの角度次第で狙い撃ちできるのです。
初心者がやりがちな落とし穴
初心者が特にやりがちなのが、この2つです。
1. インクラインばかりやる
ベンチを起こして「上部狙い!」とやりたくなる気持ちは分かります。見た目も映えるし、「胸の盛り上がり」を早く作りたいと思うからです。
でも実際には、全体の土台ができていないのに上部だけ狙っても、胸全体の厚みは出ません。結果、バランスの悪い胸になってしまいがちです。
2. パーシャルレンジ(部分的な可動域)でごまかす
フルレンジでベンチを下ろすのはキツい。だから途中で止めて「ここから押せば楽」とやりたくなる人は多いです。
でも、これはほとんどの初心者がやってしまう典型的な「楽な道の選び方」。確かに一時的には扱える重量が増えて気持ちいいですが、実際は筋肉に中途半端な刺激しか入っていません。成長スピードも遅くなります。
パーシャルトレーニングは、すでに基礎を作った上級者が「追い込み」として使うなら有効です。
しかし初心者がいきなり使うと、「重量は上がっている気がするのに胸が大きくならない」という最悪のパターンにハマります。
だからこそ、最初はフルレンジで全体をしっかり動かすことが重要です。地味でキツいですが、この時期にサボるかどうかで、1年後の胸の形は大きく変わります。
では初心者は何をすべきか?
まずは基礎を作ることが最優先です。
- チューブや腕立て伏せで筋肉に刺激を入れる習慣をつける
- ベンチプレスで胸全体の厚みをしっかりつける
- 余裕が出てきたら、ストレッチ感を得やすい ダンベルフライ を取り入れる
この流れで十分です。特別な種目やテクニックは不要。大胸筋はシンプルに「押す」「伸ばす」を繰り返すだけで成長します。
そして一つの目安として覚えておきたいのがこちらです。
- 自分の体重でベンチプレスを10回こなせる
が分かりやすい目安となると思います。
このレベルに到達するまでは、「上部を鍛えるべきか?下部を狙うべきか?」といった細かいことを気にする必要はありません。まずは胸全体を強く、厚くすること。それが何よりも大事です。
まとめてみる!
内側」「外側」という考え方は解剖学的に誤り
「上部」「下部」は角度を変えることで狙い撃ち可能
初心者はまずフルレンジで胸全体を鍛えることが最優先
余計な小手先テクニックより、チューブ・ベンチプレス・ダンベルフライで土台作りを徹底すべし
胸の内外を分けて考えるのは幻想です。
大切なのは、地味でシンプルな動作を繰り返して「胸全体の基礎」を作ること。基礎さえ固まれば、上部・下部といった鍛え分けも自然と意味を持ち、理想の胸に近づけます。
派手なテクニックに惑わされず、まずはフルレンジでシンプルに。
それが胸トレ成功への最短ルートです。
- Anatomy, Thorax, Pectoralis Major — StatPearls
- Anatomical Variations of the Pectoralis Major Muscle — PMC
- Pectoralis Major Muscle Overview — ScienceDirect
- Pectoralis Major — Physio-Pedia
- Pectoralis Major Muscle — Kenhub
- Anatomical and Surgical Considerations of the Pectoralis Muscle — Orthopedic Reviews
- Kenhub: Major Pectoralis Muscle Anatomy
- Pectoralis major — Wikipedia