
かっこいい体づくりやダイエットを目的として行われる筋トレ
そんな筋トレにメンタル改善効果があることをあなたは知っていましたか?
「夏までにマッチョになってモテたい」
「出てきたお腹を引っ込めて健康を維持したい」
そんな肉体的な願いを実現するために行われる筋トレですが、
精神的にも良い効果を期待できることが近年の研究からわかってきました。
今回は筋トレと抗うつとの関連性を、一つの論文を掘り下げることで紹介していきます。
「最近落ち込みやすい」
「気分がすぐれない」
といった、あなたの悩みは筋トレで改善することができるかもしれません。
研究の概要
今回は、2018年にJAMA精神医学に掲載されたBrett R Gordonらの研究を紹介します。
『Association of Efficacy of Resistance Exercise Training With Depressive Symptoms: Meta-analysis and Meta-regression Analysis of Randomized Clinical Trials.
訳:「レジスタンスエクササイズトレーニングの有効性と抑うつ症状との関連:ランダム化臨床試験のメタ分析とメタ回帰分析)」
※レジスタンスエクササイズトレーニングとは
レジスタンス運動とも呼ばれ、筋肉量増加・筋力向上・筋持久力向上を促す筋力トレーニングのことですが、
「筋トレ」で覚えればOKAYです。

まずは、結果を一言でまとめると!
『筋トレは、トレーニング強度や筋力アップなどの成果に関係なく、抗うつ効果をもたらす』
となります。
筋トレでメンタル改善と聞くとシンプルに、
「筋力アップによる達成感やセルフイメージの向上によって、改善されるのでは?」
と考えるかもしれません。
しかし今回の論文では、筋トレという行為自体に抗うつ効果があることを主張しています。
セロトニンやドーパミン・ノルアドレナリンといった神経伝達物質は、筋トレによって分泌が促進されます。これらは気分や幸福感の調整を行う機能を持っているため、この分泌の促進が気分の落ち込みの抑制に寄与しているのではないかと論文では考察されてます。
研究の詳細
この論文では、筋トレと抑うつ度に関して無作為比較試験を行った1877名の参加者を含む33件の研究をメタ分析することによって、メンタルに筋トレがどのような影響を及ぼすのかについて調査を行っています。
「無作為化比較試験?メタ分析??」
などと思われた方もいるかもしれません。
ここで少しだけ専門用語の説明を行っておきます。
無作為化比較試験とは?
無作為化比較試験とは、特定の行動を行ったグループと行わなかったグループに分け、それぞれに違いが生まれたかを比較する実験のことです。
ようするに、分析に利用された33件の研究はすべて、筋トレをしたグループとしていないグループの間でうつ症状の改善の程度に差が認められたのかを調べた研究であるというわけです。この差を効果量Δという形で示しています。
メタ分析とは?
次に、メタ分析とは、過去に行われた数多くの論文を総括することによって、より信憑性の高い研究成果を抽出する研究手法だと考えていただければ良いかと思います。
メタアナリシスと呼ばれることもあります。
なぜメタ分析を行うのか?
今回の研究で利用されている33件の論文のなかには、抗うつと筋トレとの大きな関連性を示した
Tappsらの研究は「効果量Δ=4.19」と非常に良いパフォーマンスになりますが、
全く効果を示さなかった結果になったSparrowらの研究チームの数値が「効果量Δ=0.00」
またメンタルに逆効果と結論付けたLauらの研究結果「効果量Δ=-0.53」が含まれています。
このように、人を対象に行われる調査研究は結果のブレ幅が大きいです。
遺伝子が単一に制御された実験室のマウスで研究するならまだしも、人間に対して行う研究は、人種や年齢といった様々な属性に関して対象者の偏りが見られることがほとんどなので研究ごとの結果の違いが大きくなりがちなのです。
そこで、メタ分析を使うことで問題を解決し、より普遍的かつ信ぴょう性の高い研究成果を生み出すためこの手法が用いられるのです。
研究結果
結果として、落ち込みや、ふさぎこみといった症状に代表されるような、うつ症状の指標25項目すべての改善に筋トレが平均して、中程度(効果量Δ=0.66)の効果をもたらすことが今研究で示されました。
↓33の研究ごとの効果量を示した図。■はサンプルサイズ(調査人数)の大きさを表す。

注目すべきなのは、この抑うつに対する、つまりメンタル改善に対する筋トレ効果というものは、性別・年齢・健康状態だけでなく実施期間から負荷にいたるまで、様々な要因に関係なく効果が確かめられたということです。(それぞれの関連を分析した結果、すべてp値が0.05以上であり、うつ症状の改善との関連が見られなかった。)
つまり、老若男女・トレーニング強度に関係なく、筋トレが抗うつ効果をもたらすことがわかったのです。
「筋トレって全力でおもりを持ち上げないと意味ないんでしょ?辛そうだな」
といった方や
新型コロナウイルスが流行しているこのご時世、
「前まではジムに通っていたけど、最近は通うのを控えているんだよな」
といった悩みをお持ちのトレーニーも多いかもしれません。
もちろん身体を大きくしたいなら、より重い重量を持ち上げた方が肉体的には効果が望めます。(最大挙上重量1RMの60%~90%が筋力アップや筋肥大に適切とされています。)
しかし、メンタルを改善するという観点では、ジムのような大掛かりなマシーンを使って行うような、キツイ高強度のトレーニングだけでなく、ダンベルを利用しながら自宅で行う、低中強度の筋力トレーニングでも問題なく抑うつ状態の改善効果を得られるということが今回の論文によって判明したのです。
実際、最大筋力の20%~60%の重りを持ち上げるような低中強度の筋力トレーニングでも、うつ病グループにおいて、うつスコアの大幅な改善(効果量Δ=0.90)が観察されたことが報告されています。
つまりジムであろうと、自宅であろうと、筋トレを行うことそれ自体に抗うつの働きがあるのです。
「最近なんだかしんどいな…」
「在宅ワークばかりで気分が滅入ってきたな」
そんな悩みをお持ちの方には、筋トレは救いの手を差し伸べてくれます。
しかもジムに通わなくても結構です。
自宅で行うトレーニングでも構いません。
トレーニングを行うこと、それ自体があなたのメンタルの改善に役立ってくれます。
まとめ
いかがだったでしょうか。筋トレがメンタルに及ぼす効果をご納得いただけたかと思います。今回紹介した論文にも記載されているように、筋トレの強度や頻度に関係なく筋トレを行うことそれ自体が、抗うつ効果もたらします。
あなたが日々取り組んでいる筋トレという活動は あなた自身の肉体の健康を保つだけでなく、精神の健康を保つ上でも一役買ってくれるのです!
この記事を読んでくださっている皆さまにはこれからも日々の筋トレに取り組み、肉体的にも精神的にも健康な人生を突き進んでいただけたらと思います。
・今回の紹介した論文
Association of Efficacy of Resistance Exercise Training With Depressive Symptoms (nih.gov)