【短編小説】 変革のレップ

Contents~目次~

第1章: 目覚めの重り

アーノルドは、毎日が繰り返しのような生活を送る平凡なサラリーマンだった。

年齢は27才、独身で彼女は募集中。

見た目は普通で、頭も別に悪くない。

偏差値、50前後の大学を普通に卒業し、そこそこ良い広告代理店の会社へ入社した、平凡な男性である。

そんな彼の日々はオフィスでの仕事と自宅での休息に満たされており、何かが足りないという感覚が常に彼を悩ませていた。

ある日、年に一度の会社の健康診断で運動不足という診断を受ける。

ある程度は予測はしていた。

それもそのはず、会社での仕事はそこそこ真面目にはやるが、

夜は上司や部下との飲み会で、帰りが遅いこともしばしばある。

そして1人で家にいる時は、ダラダラとYOUTUBE動画を視聴し、最近ではショート動画ばかりをみて、無駄に時間を過ごし、疲れたら寝る。

そしてまた仕事が始まるといった健康のことなど一切気にしない生活をしているからだ。

医師からは

「いつまでも若いと思っていたら駄目ですよ。規則正しい生活をして適度な運動をして下さいね。」

とのアドバイス。

どの医師も必ずいう、定型文的な言葉を投げかけられた。

ただ医師の後ろには1枚のポスターが貼ってあり、それを見たアーノルドはあることを思い出した。

健康診断が終わり病院から家に帰ると、アーノルドは自分の部屋を見渡した。

直ぐに押入れを開け、あるものを探した。

そこには少し埃を被ったポスターがあり、すぐに手を取って広げた。

ポスターを広げたことで、埃は少し舞ったが、彼が子供の頃に憧れたヒーローがそこにはいた。

病院にあったものとは少し違うが同じヒーローだ。

その強い姿が今も彼の心を鼓舞した。

ヒーローが持つ筋肉質の体と、決意に満ちた表情を見つめながら、アーノルドは自分もこうなりたっかという過去を思い出し、もしかしたら変われるかもしれないと思った。

ただそうはいっても、その時の高揚感はその場だけだった。

数時間後にはポスターをその場に置かれていて、

いつものように夜が更け、

アーノルドはいつも通り、リラックスするためのYOUTUBEを見始める。

横にはさっき食べたばかりのカップラーメンとおにぎりのゴミがあり、

これから、糖質ゼロのアサヒスタイルフリーのビールを飲むとこだ。 

アーノルドはお笑いが大好きなので、千鳥の動画を探していた。

そんな時にスマホのスクリーンに、なかやまきんにく君の動画がお勧めにでてきた。

なぜ、この動画が出てきたかわからない。

まさかYOTUUBEのAIがアーノルドの一日を監視していたのだろうか。

などと、考えることも面倒になってきた。

アーノルドは、なかやまきんに君の筋肉に吸い寄せられ、見るつもりはなかったがクリックをしてしまった。

しかし、その動画を視聴し始めて彼は驚いた。

彼にとっての、なかやまきんに君は一発屋の芸人のイメージしかなく、さほど面白いといった印象が全くなかったからだ。

驚くほど、面白い!

アーノルドは彼の過去の動画も含め見まくった。

なかやまきんに君の動画はお笑い要素以外にも、メッセージ性なども踏んだんに盛り込まれていたことも影響したのか、夢中になり、久しぶりに心から笑ったし、興奮した。

動画の中での、なかやまきんに君は全てにおいて全力である。

お笑いだけでなく、筋トレも、生き方も、そして視聴者に対してもだ。

アーノルドは昼間のポスターの事を思い出し何かを始めないといけないと感化される。

彼の心に新しいアイデアが芽生えた。

翌朝、アーノルドは目覚めると決意を固めた。

彼は自分の体を鍛え、小さい頃憧れたヒーローみたいな外見になりたいと思い、筋トレを始めることにした。

それはただの運動ではなく、筋トレだ。

これが彼の人生を変える旅の始まりということはまだアーノルドは知らない。

まずは、アーノルドは外見的なかっこよさを求め、新しい挑戦に向けて第一歩を踏み出したのだった。

第2章: 汗と笑いの日々

アーノルドのジムでの最初の日は、彼にとってまさに目覚めの瞬間だった。

家の近所にジムがあったことすら知らなかったアーノルドは、そのジムにある筋トレの機械は彼にとって未知のものであり世界だった。

入会手続きを済ませ、すぐにマシーンを使い筋トレを始めたが、使い方がさっぱりわからなかった。

チェストプレスというマシーンでは座席の調整の仕方がわからず、3分ぐらい格闘していた。

これは筋トレなのか脳トレなのかわからくなった。

また周りにはベテランと思われる男性や、そこそこかわいい女性達がいて、こちらをみてクスクス笑っているような気もした。

早くも挫折しそうになった。

しかし、彼は諦めずに顔を真っ赤にしながら筋トレを続けた。

大した重量を扱っているわけではないが、彼は汗だくになりもう肩より上には腕が挙がらないと思うほど、筋肉が疲弊していた。

こんなにも自分の体は弱いのかと更に彼のメンタルをも追い詰める。

ただその時、彼の人生に新たな光が差し込む。

それはコリンという女性だ。

コリンはそのジムのトレーナーで、彼女の美しさとカリスマ性はジムの中でも一際目立っていた。

コリンはアーノルドに声をかけパーソナルの提案をした。

もちろん、アーノルドは二つ返事でお願いした。

それが下心なのか、純粋に筋トレのやり方を教えてもらいたいのかはよくわからない。

一つ確かなことは、

コリンがめちゃめちゃ綺麗ということだけだ。

コリンはまずアーノルドとの面談を行い、どのようなトレーニングメニューを組んだ方が良いか考えた。

コリンはすごく聞き上手で、彼女からの質問はほとんどなく、アーノルドが1人で自分のことを30分以上べらべらと話すだけで面談が終了した。

しかしコリンは優秀だった。

コリンはアーノルドに対し、彼の現在の状態に合わせた特別なトレーニングプランを提案した。

アーノルドはコリンの指導の下、徐々に筋トレの基礎を身につけていくことになる。

またコリンはプログラムを組むだけでなく、トレーニング中に細かい注意点をテンポよく教えてくれた。

一度に色々いっても理解出来ないことを知っているからだろう。

毎回、同じトレーニングをしているにも関わらず、新しい発見しかないので全然飽きず、楽しくトレーニングが出来た。

ただ問題がある。

それは、筋肉痛との闘いだ。

最初の1ケ月は本当に地獄だった。

いつもであれば、絶対にやめているはずだが、やめなかった。

楽しかったからだ。

どんなに体痛くても、トレーニングする度に新しい発見があり、そして体はしっかりと疲れた状態で帰宅するので、睡眠の質も上がったように感じ、なによりもご飯が美味しかった。

空腹は最大の調味料というが、まさにそれだ。

家には、キュウリの漬物がありいつもなら食べないが、水分、塩分を欲している体となれば話は別だ。

めちゃめちゃうまい。

それと、もう1つジムに行く楽しみがある。

それはジムにはテレビがいくつかあり、お笑い番組が映し出されているからである。 

ボリュームは小さいが、字幕付きなのでなんとなく内容がわかる。

疲れたあとでも、笑っている人達をみるとなぜか元気が出てくる。

人間というのは単純なものだ。

これもコリンのアイディアなのかはわからないが、笑いながらのトレーニングは、彼にとって新しい体験であり、楽しみながら体を鍛えることができる秘訣と関係しているような気はした。

このようにして、アーノルドは毎日のトレーニングを続けた。

そして、コリンとの関係も徐々に深まっていった。

彼女のサポートとユーモアのセンスは、アーノルドと相性がよかったのだ。

そしてなによりもアーノルドは自身の変化を実感し始めていた。

彼は知らず知らずのうちに、筋トレを通じて自分自身を見つめ直し、新しい自分を発見し始めていたのだった。

第3章: 筋肉と自信の成長

時間が経つにつれ、アーノルドの努力は実を結び始めた。

ジムでの厳しいトレーニングとコリンの指導のおかげで、彼の体は目に見えて変化していった。

鏡に映る自分の姿を見るたび、彼は新たな自信を感じるようになった。

筋肉の成長だけでなく、彼の内面も変わりつつあった。

職場では、アーノルドの変化は同僚たちにも明らかだった。

彼のエネルギーと自信は仕事にも良い影響を与え、パフォーマンスの向上に繋がった。同僚たちからの賞賛と注目は、彼にさらなるモチベーションを与えた。

ただここで、小さな問題も発生した。

それはスーツの買い直しだ。

大胸筋が盛り上がりYシャツのボタンははち切れそうなるのはもちろん、もともとタイトなスラッグスを着用していたのがタイツみたいになり、コントの衣装を着ているようだった。

最初は会社の人に茶化されたりもした。

しかしそれが筋肉のせいだとわかると、一時的なからかうネタであって、逆に注目を集めて結果よかったかもしれない。

もともと口下手ではなかったが社内、社外問わず、人とのコミュニケーションも、筋トレの話や食事の話などをすることで話題が尽きる事がなくなった。

それにより、以前よりも明るくなったかもしれないと感じた。

よく考えれば、子供の頃は興味があることだけを友達と話をし、遊びストレスという言葉は無縁だった。

まさにいまがその状態かもしれない。

またジムでのトレーニング中、アーノルドは子供の頃に憧れたヒーローのポーズをとることがあった。

彼はそのポーズをとると、自分がそのヒーローになったような気分になり、トレーニングに対する意欲がさらに高まった。

このポーズは彼にとって、過去と現在をつなぐ象徴的なものとなった。

一方で、コリンとの関係は良好で、彼女は自分の過去について色々を話をしてくれるようになり、強い親近感をもつことでき、彼女と会う楽しみも出来た。

コリンが筋トレになぜ情熱を注いているのか。

彼女のこれまでのストーリーに深い感銘を受けた。

ざっくりいうと、コリンは過去に大きな挫折を経験しており、その経験が彼女を今のトレーナーとしての地位に導いたことが明らかになった。

アーノルドはコリンの過去から大きなインスピレーションを受けた。

コリンとは大分違う過去だが、共通することは色々ある。

都合の良いように解釈をしていたかもしれないが、そんなことはどうでもよい。

アーノルドにとってコリンの存在はただのトレーナー以上のものとなり、彼女は彼の人生の重要な一部となっていった。

そしてアーノルドの筋肉と自信の成長は止まらず、彼はこれまでにないほどの充実感を感じていた。

第4章: 挑戦と逆境

アーノルドの筋トレの旅は、新たな高みに達していた。

彼は自分自身に挑戦するため、そしてこれまでの努力を試すために、地元のボディービルの大会への参加を決意した。

コリンもこの決断を支持し、アーノルドのために更にスペシャルなトレーニングプログラムを組んでくれた。

このプログラムには、大会で使用するための秘密のトレーニングが含まれており、アーノルドはこれに大きな期待を寄せていた。

しかし、準備の最中に予期せぬ事態が発生した。

アーノルドは高重量のトレーニング中に怪我をしてしまい、トレーニングを一時中断せざるを得なくなった。

この怪我は彼にとって大きな打撃であり、彼のモチベーションにも悪い影響を与えた。

アーノルドは自分の弱さと直面し、強い挫折感に苛(さいな)まれた。

これまでが順調過ぎたのかもしれない。

しかし、この逆境の中でコリンの存在がアーノルドにとっての灯台となった。

彼女はアーノルドに対し、2つの言葉を与えた。

「怪我は体が休息を必要としているサインよ。」

といった。

また、

「強さは、困難に立ち向かう勇気から生まれる」

という言葉も彼に伝えた。

コリンの言葉はアーノルドの心に深く響き、彼は再び立ち上がる勇気を見いだした。

なぜなら、小さい頃に憧れたいたヒーローも同じセリフを言っていたからだ。

コリンにはそのことは言わなかったが、もしかしたら同じヒーローを好きなのかもと頭をよぎったがコリンには尋ねなかった。

余計なことを言ってコリン嫌われたくなかったからである。

この2つの言葉はコリンからの助言として強く受け止めた。

アーノルドはコリンのサポートを受けながら、慎重にリハビリを進めた。

彼は自分の体と心を丁寧に扱いながら、少しずつトレーニングを再開した。

怪我からの回復は容易ではなかったが、アーノルドはそれを乗り越えるために精一杯の努力をした。

それは根性論だけなく、近代スポーツの理論武装だ。

筋トレをやっていると、脳みそまで筋肉と揶揄されるが実際は全然違う。


筋トレやフィットネスに役立つ学問は多岐にわたり例えば、

運動生理学

これは筋肉の仕組みや身体がどのように運動に反応するかを理解するのに役立ち、運動中のエネルギー代謝、筋肉の成長と回復、運動による健康への影響など学ぶことが出来る。

また栄養学を学ぶことで筋トレの効果を最大限に引き出すたの栄養摂取について知ることが出来る。

解剖学は人体の構造を理解するこで、効率的で安全なトレーニング方法がわかることに加え、生物力学なども運動のメカニズムや動作の効率化を理解することで筋トレの動作を分析し、より効果的で怪我のリスクを減らすトレーニング方法が明らかにしてくれる。

そして心理学はモチベーションや精神的健康をどのようにして保ち筋トレの成果へ影響させるか。これは運動心理学というものが確立されている。

その他、スポーツ科学を知ることで、昔ながらの根性論からは卒業し、運動の最適化、自身でのトレーニングプログラムの開発など、自分の頭で考え行動が出来るメリットがある。

このように様々なことを学ぶことで、筋トレの効果を最大限に引き出し、健康的で安全なトレーニングを行うための知識と技術を習得することが可能である。

また、アーノルドはこの筋トレ通じて、外見や知識だけでなく、

真の強さとは何か、そして自分自身の内面にある力を新たに認識することとなった。

第5章: 勝利の筋肉

アーノルドの筋トレの旅は、単なる身体の変容を超え、彼の人生における

「変革のレップ」

を理解した。

つまり、

深い変化への重要なステップということだ。

回復を遂げたアーノルドは、心身の限界を超える覚悟でボディービル大会の準備を再開した。

彼の目的は、大会での優勝というのを超え、自己の可能性を最大限に引き出すことだった。

大会の日、アーノルドは舞台に立ち、深呼吸をして集中した。

彼はコリンの助言と自身の内なる声に耳を傾け、自信に満ちた姿勢でパフォーマンスを開始した。

彼が選んだポーズは、子供の頃に憧れたヒーローのポーズであり、それは彼にとって変革の象徴だった。

その瞬間、彼の過去、現在、そして未来が一つに繋がるかのような力強さを感じ、観客はその姿に息をのんだ。

彼のパフォーマンスは圧倒的で、会場は割れんばかりの拍手で満たされた。

アーノルドは自分の筋肉と精神の強さを見事に証明し、大会では優勝を手に入れた。

しかし、彼にとって最大の喜びは、自分自身の変革を遂げたことにあった。

大会後、アーノルドはコリンと共に、過去と未来についての深い話を交わした。

これまでの両者の過去の苦難と現在の情熱は、そして未来へのベクトルは同じ方向に向いていることが確認出来た。

二人の関係は新たなレベルへと進展し、彼らの間には深い絆が生まれそうになった。

優勝のトロフィーはバックの中にしまい、帰宅した。

家に帰ると、そこには1枚のポスターがある。

その下にトロフィーを置き、ポスターに向かって。

「ありがとう」

と小声で叫ぶ。

アーノルドは部屋の窓から外を見つめながら、自分の人生の変化を静かに振り返った。

筋トレを通じて得たのは、ただの肉体的な強さではなく、自己変革と人生の再定義だった。

彼は遠くを見つめ、未来への新たな一歩を踏み出す準備をしていた。

これは終わりではなく、新たな始まりの瞬間だった。

アーノルドの筋トレ物語、そしてコリンとの関係はどうなっていくのか。

筋トレや恋愛に終わりなどない。

まだまだ続いていく。

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